クールな次期社長の甘い密約

「いいえ、ここは雨が降り始めて一定の雨量になると峠に向かう国道は遮断機が下りて通行止めになるんです。今ここは陸の孤島。抜け道は旧道一本しかありません。

地元の人じゃないと分からない山道を倉田さん一人で行くなんて絶対無理です。だから、私が一緒に行きます」


倉田さんは黙り込んでしまったが、母親は黙っていない。


「茉耶、あの道は車一台がやっと通れるガードレールもない危険な道よ。運転を誤ったら崖下に真っ逆さま。地元の人でも滅多に通らないのに、それをこんな台風の時に行くなんて自殺行為よ」

「分かってる。でも、倉田さんは運転が上手だから心配いらないよ」


しかし、私がどんなに大丈夫だと言っても両親は聞き入れてくれなかった。が、その時、私達の話しをジッと聞いていたおばあちゃんが口を開く。


「行かせてやりなさい」


焦ったのは母親だ。「おばあちゃんまで何言ってるの?」って激怒したけど、おばあちゃんは全く動じない。


「お前達だって大切な人が危篤だと聞いたら何がなんでも駆け付けるだろ? 行かなかったら後悔するからね。お兄ちゃんも同じだよ」

「でも……」

「後悔しながら生きていくのは辛いものだ。優子さんはお兄ちゃんが一生、後悔してもいいのかい?」


おばあちゃん……


おばあちゃんの説得のお陰で両親も渋々だが納得してくれた。私と倉田さんは荷物をまとめて出発の準備をする。


「危ないと思ったら引き返してくるんだよ」と言うおばあちゃんの言葉に頷き玄関を出ると凄まじい風と横殴りの雨に体がよろけた。

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