クールな次期社長の甘い密約
普段は聞こえない波の音が聞こえる。海も荒れているんだ……
不安な気持ちで空を見上げると玄関に横付けされた黒塗りの車から倉田さんが降りてきて、後部座席のドアを開けた。だけど私は助手席のドアを開けて乗り込む。
今日は倉田さんの隣りがいい……
「行きましょう」
私の言葉に頷いた倉田さんが一呼吸おいてアクセルを踏み込み、車がゆっくり動き出す。
しかし、最速のワイパーでもフロントガラスに打ち付ける雨を払い除ける事が出来ず、景色が歪んで見える。
やっとの思いで旧道の入り口まで来たが、ここからが大変だ。明かりも何もない坂道をノロノロ運転で上がって行く。
「山を二つ越した先に県道があります。そこまで行けば、なんとかなると思います」
「分かりました。付き合わせてしまって申し訳ありません」
「いいえ、私も会長にお会いたいですし……それに、倉田さんを一人で行かせていたら、きっと心配で眠れなかったと思います。だったら一緒の方が気が楽です」
「そうですか」
倉田さんが私の方を向いて微笑んだので、私もニッコリ笑い返す。けれど、山を一つ越えた所でいきなり問題発生。
目の前の川が濁流となって橋を飲み込もうとしていた。その凄まじい轟音に思わず二人して固まる。でも、まだ橋の上までは水は来ていない。一気に橋を渡り切り、再び坂道を上り出す。
「もう少し行くと道幅が狭くなります。気を付けて下さい」
私がそう言った直後、倉田さんが急に前のめりになって不思議そうに呟いた。
「あの点滅しているレインボーの光りはなんですか?」