クールな次期社長の甘い密約
暗闇に浮かび上がるなんとも異様な点滅する七色の明かり。
私は倉田さんの質問にシドロモドロで答える。
「あ、あぁ……あれは、その~旅館みたいなモノです」
「こんな所に旅館?」
しかし、その明かりが間近に迫った時、隣から彼の呆れた声が聞こえてきた。
「何が旅館ですか? ラブホテルじゃないですか。いや、ラブホと言うより、モーテール……ん~でもないか……これは、連れ込み宿レベルですね」
倉田さんはバカにするけど、ここは、町唯一のラブホ。でも、私が生まれるずっと前から営業してるからボロボロで、今風の洒落たラブホじゃない。それでも人目が無いという立地条件の良さが幸いして結構、繁盛しているらしい。
けれど、さすがに今日は誰も利用していない様だ。
このラブホまでは道路も舗装されているが、この先は本当の山道になる。
お互い徐々に口数が少なくなり始め、車のライトだけを頼りにゆっくり進んで行く。すると――……
「ええっ! うそ……」
「ここまで来て、なんて事だ……」
私達が落胆したワケ、それは、もうこれ以上、先には行けないと分かったから。目の前の道は崖から崩れた土砂で完全に埋まっていて、ライトに照らされ浮かび上がった土からは、茶色い水が流れ出していた。
とても危険な状態だ。またいつ崩れ出すか分からない。
「もう無理ですね……」
「くそっ!」
倉田さんがハンドルを叩き、怒りを露わにする。でも、どんなに悔しがってもどうしようもない。
「倉田さん……残念ですが、戻りましょう」