クールな次期社長の甘い密約
「ち、違う! 旧道を抜けようと思ったら、この先が崖崩れで……」
誤解を解こうとしたけど、梅さんは人の話しを全然聞いてない。倉田さんが代わり説明してくれて、やっと電話を貸りる事が出来た。
「大沢さん、先に私に掛けさせて下さい。常務に会長の具合を聞いてみます」
「常務に? 専務に聞いた方が早いんじゃないですか?」
「いや、向こうが今、どんな状況か分かりませんし、専務に直接電話するより常務の方がいいでしょう。常務なら事情を把握しているはずです」
そうか……こっちから電話するのは控えた方がいいかもね。それに、病院だからスマホの電源を切ってるかもしれない。
緊張した面持ちで常務に電話をする倉田さんを見つめていたのだけど、彼は頷くだけで何も喋らないから内容は全く分からない。
そして数分後、電話を終えた倉田さんが受話器を置くなり、力尽きた様にその場に座り込んでしまった。
まさか……
最悪な結果が脳裏を過り、なんて声を掛けていいのか分からない。だから、彼の背中をソッと擦る事しか出来なかった。すると突然、顔を上げた倉田さんに腕を引っ張られ抱きすくめられたんだ。
「……持ち直したそうです」
「えっ?」
「会長の意識が戻ったんですよ!」
「ほ、本当ですか?」
もうダメだと諦めていたから驚きと嬉しさで舞い上がってしまい、私も倉田さんの体を強く抱き締める。
良かった……本当に良かった。
夢中で抱き合い喜びを分かち合っていると一人シラケていた梅さんが私の肩を叩く。
「で、アンタ達、エッチするの? しないの?」