クールな次期社長の甘い密約

「だからぁ~私達は電話を借りに来ただけで……」


呆れてまた一から説明を始めると倉田さんが私の話しを遮り「泊まります」って言ったんだ。


「えっ! マジですか?」

「車の中で一夜を過ごすよりいいでしょう。それに、濡れたままでは風邪を引きますよ」


確かに、夏とは言え、ずぶ濡れになって少し寒い。でも事情はどうであれ、倉田さんとこんな所に二人で泊まるなんていいんだろうか……


妙に意識してしまい視線が泳ぐ。が、次に倉田さんが言った言葉で、そんな心配は無用だったという事に気付く。


「部屋は別々にして下さい」


あぁ……そうだよね。私ったら何考えてんだろう。


「な~んだ。そうなの? 遠慮しなくていいのに~。まぁ、この通り客は誰も居ないし、どこでも好きな部屋使っていいよ」


そう言って梅さんが指差したのは、薄暗い廊下。


なんだか不気味。お化け屋敷みたい……


その後、私も電話を借りて実家に電話したけど、詳しくは話さず、無事だという事だけ伝えて電話を切った。


「では、私はこの部屋で……」

「じゃあ、私は向かいの部屋にします」


車から荷物を降ろした私達は薄暗い廊下で挨拶を交わし、別々の部屋のドアを開ける。が、部屋に入った直後、室内から妙な音が聞こえてきた。


なんの音かと思い電気を点けてみて唖然とした。


「えぇっ? 何これ?」


部屋の中なのに、雨が降ってる……


その信じられない光景に驚き、慌てて廊下に出ると倉田さんも向かいの部屋から飛び出してきた。


「尋常じゃない雨漏りが……」

「私の部屋も雨が降ってます!」

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