クールな次期社長の甘い密約

田舎者だけど虫が大の苦手な私は大声を上げ、失神寸前。すると「大沢さん、どうしました?」という声と共に浴室のドアが凄い勢いで開いたんだ――


「ムムム、ムカデが……足に……」


放心状態で自分の足元を指差すと倉田さんがスリッパを手にし、素早くムカデを足から払い除けてくれた。そして、そのままバンバン叩いてムカデを血祭りに上げている。


変わり果てたムカデの亡骸を呆然と眺めていたんだけど「刺されませんでしたか?」と聞く倉田さんと目が合った瞬間、我に返り、自分が素っ裸だった事に気が付く。


「キャ~ッ!!」


今度は別の意味で悲鳴を上げ、思わず手に持っていたシャワーヘッドを倉田さんの方に向けてしまった。


あっという間に倉田さんもずぶ濡れ……


「うわっ! 何をするんですかー!」

「す、すみません、決してワザとじゃ……あぁっ! ダメ! こっち見ないで~」


床にペタンと座り、前屈みになって必死に胸を隠していたら、頭上から倉田さんの冷めた声が聞こえてくる。


「大丈夫ですよ。アナタの裸は目に映っていましたが、見てはいませんから」


はぁ? 目に映っていたけど見てないってどういう事よ?


何ワケの分かんない事言ってるんだろうと眉を顰めたが、それはつまり、私の裸を見てもなんとも思わないって事だよね。


私に好意を持っているって言ってくれたのに、もうそんな気持ち無くなっちゃったのかな……


本当はその方がいいのに、なんだか無性に悲しくなる。

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