クールな次期社長の甘い密約
無言で俯く私の後ろから「失礼しました」という冷淡な声が聞こえてきた。振り返ると湯気で白く霞んだ浴室を出て行こうとしている背中が見える。
「――倉田……さん」
無意識に彼の名を呼んでいたけど、それはとても小さな声で、シャワーの音に掻き消され倉田さんの耳には届いてないと思っていた。けれど……
「なんでしょう?」
ドアノブに手を掛けた倉田さんが足を止めこちらに視線を向ける。
その顔を見た時、なんでだろう。どうしても彼の気持ちが知りたくなり、その欲求を抑える事が出来なかったんだ。
聞いたところでどうしようもない事だけど、知りたい……
「倉田さんは、今でも私に好意を持ってくれていますか?」
唐突な質問に驚いたのか、彼からすぐに答えは返ってこず、目を見開いたまま私を凝視している。
「それを聞いてどうするのですか?」
いつもの冷静な声。それが私の知りたいという気持ちを更に増大させ、もう我慢の限界だった。
「どうもしません。でも、知りたいんです!」
ドアノブから手を放した倉田さんが近付いてくる。そして私の前に立つと床に膝を付き、濡れて頬に張り付いた私の髪を掻き上げた。
「どうもしないのなら、言いません」
「えっ……」
「私が本心を言って何かいい事があると言うのなら……言いましょう」
「いい事……?」
「そう……例えば、私の男としての欲求を満たしてくれるとか?」