クールな次期社長の甘い密約
「それは、こけしの様な不細工な女性を、我が社の受付に置いておくのは会社の恥だと思ったからでしょう。だから、なんとか少しでもまともな容姿にしたかった……のでは?」
「えっ? でも、私は他の部署に異動になるのですから、その必要はないのでは……」
「異動? そんな予定はありません。大沢さんは、これからも受付です」
「へっ? マジですか?」
そんなぁ~受付から解放されると思ってたのに……話が違うよ~
すっかり安心していたから動揺がハンパない。前の座席の背もたれに額を押し付け愕然としていると、男性がハンドルを切り「到着しましたよ」って声を掛けてきた。
車は会社の地下駐車場に続く緩い坂道を下り、一番奥のエレベーターホールの前で停車した。
時間は午後四時半。定時までまだ三十分ある。当然、受付に戻るつもりで車から降り、役員用のエレベーターに乗り込んだ男性に軽く会釈したのだけど、男性はエレベーターの扉を閉めようとしない。
「乗って下さい」
「あ、私は一般のエレベーターで行きますので……」
「専務への報告があります。乗って下さい」
はぁ? 専務の所に行くの?
プルプル首を振るが、美容院と眼科の費用を全て持ってくれた専務にお礼を言うのが社会人として当然の礼儀だと諭され、渋々役員用のエレベーターに乗る。
一気に最上階に到着したエレベーターを降り、ワックスで鏡の様になった床をおっかなびっくり歩いて行くと『専務室』と記されたプレートが埋め込まれている重厚なドアが現れた。