クールな次期社長の甘い密約
そして倉田さんは会社を辞め海外留学した。
「アメリカでの生活も十年以上になり、もう日本には帰らないだろうと思っていました。そんな時、常務から電話があったんですよ」
「えっ、どうして常務から?」
「前にも話したと思いますが、常務は社長が一番信頼している人物です。社長は常務にはプライベートな事も相談していたんですよ。ですから私の事も承知していました」
常務からの電話は、君華さんが余命宣告されたという驚愕の内容だった。倉田さんは急いで日本に戻り、君華さんが入院している病院に向かった。
君華さんの具合は思った以上に悪く、意識も朦朧としていたけど、倉田さんを見るとニッコリ笑い優しく頬を撫でてくれたそうだ。
「私は自分を責めました。まだ君華さんになんの恩返しもしていませんでしたからね。それからは毎日、専務が仕事で居ない昼間に病院に通いました。専務に知られたら来るなと言われるのは明らかでしたから」
そして、その時がきた――……
「私が居た昼間に君華さんの容体が急変して息を引き取ったのです。君華さんは亡くなる直前、私の手を力無く握り言いました。貴志を頼むと……それが最後の言葉でした」
「専務を……」
「その言葉を聞いた時、私は決意したんです。津島物産に戻ろうと。君華さんから受けた恩を返す為、津島物産に戻って専務を支えようと……」
その申し出に社長は喜んでくれたが、専務は違っていた。一度辞めた人間を再び雇うなど有り得ないと納得しなかったんだ。それでも諦めず頼み込むと専務が無謀な条件を出してきた。