クールな次期社長の甘い密約
「お父さんね、せっかく貴志君が借金を肩代わりしてくれたのに、また借金が増えちゃったって、だいぶ参っているわ」
「そう、で、どのくらいの被害なの?」
「そうね……まだハッキリした事は分からないけど、三百万ってとこかしら? お父さんはもう農業を辞めるって言ってるわ」
「えっ……そうなの?」
「まぁ、どっちにしても、後を継いでくれる人が居ないしね。お父さんも自分の代で廃業するって決めてたから、それが少し早くなっただけよ」
父親は口には出さないけど、本当は私に後を継いで欲しかったんだと思う……ごめんね。お父さん。
ため息を付いた母親がキッチンに戻り、私と倉田さんはどこからともなく聞こえてくる虫の声を聞きながら無言でスイカを食べていた。すると静寂を破り、私のスマホが鳴る。
専務からだ……
専務は会長が持ち直したと興奮気味に話している。その事を知っていたのに、ワザと今聞いた様なリアクションをして喜ぶ自分が凄くイヤだった。
『昨夜、何度も電話したんだぞ。全然繋がらなかったが、何かあったのか?』
罪悪感でいっぱいなのに、私はまた嘘を付く。
「あ、その……台風で電波塔が倒れて……さっき復旧したみたいです」
『なるほど。だから倉田の携帯も繋がらなかったんだな。で、いつ、こっちに戻ってくるんだ?』
私はウチの畑の被害を話し、片付くまでこっちに居たいと言って倉田さんの横顔をチラッと見た。
「倉田さんも手伝ってくれていて、とても助かっているんです。両親も出来ればもう少し倉田さんに手伝ってもらいたいって言ってるんですが……」