クールな次期社長の甘い密約

男性が躊躇なくドアを開け中に入って行く。すると、今朝の専務の激怒した顔が思い出され急に足がすくむ。


「あの、もう限界です。気持ち悪くて吐きそうです」


しかし、男性は顔色一つ変えず「こみ上げてきたら口の中に留めて飲み込んで下さい」って、とんでもない事を言う。


男性に急かされ専務室に入ると小ぶりのカウンターがあり、そこには、ブラックスーツのいかにもキャリアウーマンって感じの女性が座っていた。女性は妖艶な笑顔で男性に会釈している。


「倉田課長、お疲れ様です」


この人、倉田さんって言うんだ。


「専務は居る?」

「はい、お待ちかねです」


倉田さんには笑顔で対応していた女性だったが、私に向けられた視線は凍り付く様に冷たかった。


この人、秘書課だよね。森山先輩より怖そう……麗美さんこんな人と仕事してるんだ……


なるべく存在感を消しカウンターの前を速足で通り過ぎる。そして、目の前のドアの前で再び立ち止まった。


このドアの向こうに専務が居るんだ。とにかく失礼のないようにしないと……まず挨拶して、それからお礼を言って……


ブツブツ呟き確認作業をしていたのに、その作業が終わる前に倉田さんがドアを開けてしまい、心の準備がないまま背中を押される。


足を踏み入れた専務室は、正しくドラマに出てくる重役室そのもので、壁には意味不明な抽象画が幾つも掛かっていて、キャビネットには、高級そうな調度品がさり気なく置いてある。


そして、黒のレザーのソファーの後ろには、大きなデスク。そのデスクに座っているのは、超美形の専務。

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