クールな次期社長の甘い密約

『そうか……じゃあ、落ち着いたら倉田と帰ってくればいい。連休が終わるまで、まだ三日あるからな』


私は倉田さんと一緒に居たいが為に、嘘の上に嘘を重ねる。


そんな私に専務は……『三百万の被害か……そのくらいなら俺が出してもいいんだが……ご両親に聞いておいてくれ』なんて優しい言葉を掛けてくれた。


さすがにそれは断ったけど、なんとも後味の悪い電話だった。


隣りで電話を聞いていた倉田さんもさぞ不愉快だったろうと思い、倉田さんになんの相談もなく勝手に嘘を付いて引き止めた事を謝る。


「気にしないで下さい。どうせ帰っても何もする事はないのですから。こちらで少しでもお役に立てるならその方がいい。それに、私は土いじりが好きでしてね。結構、楽しんでやらせてもらってますよ」

「えっ、そうなんですか? なんだかイメージじゃないなぁ~」


意外過ぎて思わず吹き出してしまった。


「その笑い、バカにしてますね?」


ムッとした彼が私の肩を押す。が、思いの外強く押され、縁側から落ちそうになった。


「わわっ!」


慌てた倉田さんがフラ付く私の腕を引っ張り、今度はその反動で勢い余って彼の胸に飛び込んでいく。


「あ……」


広くて温かい胸。もうこの胸に抱かれる事はないのだと思うと名残惜しくてなかなか離れる事が出来ない。


いっそこのまま倉田さんとどこか遠くへ逃げてしまいたい……


バカな考えだと分かっていても、ついそんな風に思ってしまう。


「倉田さん……もし私が専務と結婚しないと言ったらどうしますか?」

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