クールな次期社長の甘い密約
「専務、遅くなり申し訳御座いません。受付の大沢さんです」
いきなり専務の前に放り出され、私の緊張はピーク。足がガクガク震えて挨拶の言葉さえ出てこない。そして、専務の方も同様に何も言わず、デスクに両肘を付いて私を凝視している。
どのくらいそうしていたんだろう……突然専務が私に向かって手招きした。
「こっちに……近くに来て」
「は、はい」
遠慮気味にデスクの前に立ち頭を下げるが、専務はもっと近くに来いと言う。言われるままデスクをぐるりと回り、座っている専務の真ん前に立つと、彼は不思議そうに私の顔を覗き込んできた。
「君、本当に、受付のこけし女なのか?」
「あ、はい。受付のこけし女です」
自分の事をこけし女だって自己紹介するのもどうかと思ったけど、そう聞かれたから仕方ない。
「驚いたな……」
険しかった専務の表情が緩み優しく微笑む。その笑顔が私には眩し過ぎて思わず目を逸らしてしまった。頬が熱く火照り、赤く染まっているのが自分でもハッキリ分かる。
そんな状態で、いきなり手を握られ「君がこんなに美しい女性だとは思わなかった……」なんて、一生、聞く事などないと思っていた台詞を囁かれたものだから、別の意味で吐きそうになった。
――と、その時、専務が握っていた手を強く引いたんだ……
意表を突かれ、バランスを崩した体が傾き、専務に向かって倒れていく。これはヤバいと足を踏ん張るが、専務の両腕が腰に回され更に強く引き寄せられる。
「えっ……」