クールな次期社長の甘い密約

一瞬、何が起こったのか分からなかった。気付いた時には、専務の膝の上にチョコンと乗っかり、後ろから強く抱き締められていたんだ。


「す、すみません」


慌てて立ち上がろうとしたけど、腰に回された専務の腕がそれを許さない。


男性と手も繋いだ事ないのに、いきなりこんな事……それも、専務とだなんて……


包まれた体全体から伝わってくる専務の温かい体温と鼻孔を擽る爽やかだけど、ほんのり甘い香り。そして、私の髪を微かに揺らす彼の吐息――


緊張して体はガチガチに固まっているのに、なんて心地いいんだろうと思ってしまう。でも、無表情の倉田さんの姿が視界に入ったとたん現実に引き戻され、改めて、これは異常事態なのだと気付く。


掠れた声で専務に放して欲しいとお願いし、倉田さんが見てると訴えるが、専務は全く気にしている様子はない。


「んっ? 倉田? ソイツの事は気にしなくていい。倉田は感情のない機械みたいなヤツだからな。なんとも思ってやしないさ」


なんとも思ってないって……そんな事言われても完全に目が合ってるのに、気にするなって方が無理だ。


「倉田が邪魔なら、場所を変えて二人で食事でもするか?」

「せ、専務とお食事……ですか?」


正にドラマ的展開。全身の血が沸騰して体が溶けてしまいそう……


しかし、今まで何も発する事なく、ただの傍観者だった倉田さんが、突然口を開く。


「専務、これから佐藤商事の社長と会食の予定です。もうそろそろ、お時間ですが……」

「あぁ……そうだったな」


倉田さんの一言で、私はようやく専務の腕の中から解放された。




――――

誠に申し訳ありません。
書籍化に伴い、サイトでの公開はここまでとなっております。
文庫版では、こちらのオリジナルを大幅に改稿し、既にオリジナルを読んで頂いた方にも、また違った作品として読んで頂けるのでは……と思っております。
是非、文庫版も宜しくお願い致します。

ページを捲ってくださった全ての方に感謝!
有難う御座いました。

沙紋みら

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