クールな次期社長の甘い密約

「茉耶の俺への愛は、その程度のモノだったのか?」


落胆した専務の言葉は私の胸に深く突き刺さる。


そうだった。私だって専務を裏切っている。彼を責める資格なんてなかったんだ。


「……ごめんなさい」


消え入りそうな声で謝ると専務が立ち上がり、私の頭を優しく撫でてニッコリ笑う。


「キツい事を言って悪かった。でもな、茉耶だけには信じてもらいたかったんだ。俺が愛しているは、茉耶……君だけだから……」

「専務……」

「木村は俺達の結婚を妬んで脅してきたんだよ。でももう心配はいらない。倉田が解決してくれた。あの日は疑いが晴れた事が嬉しくてつい飲み過ぎてしまったんだ」

「疑いが晴れたという事は、木村さんのお腹の中の赤ちゃんは専務の子供じゃなかったと……」

「当たり前だろ? とんだ濡れ衣だよ」


専務は当然の様に断言するけど、私の頭の中には、まだ木村さんの号泣する姿がこびりついていて、あれが本当にお芝居だったのかと疑問に思ってしまう。


だから、木村さんが主張を覆したワケを知りたいと思ったんだ。


「……それで、倉田さんはどうやって木村さんを説得したのですか?」


でも、専務は「さぁな、倉田に任せていたから俺には分からない」と首を振る。


「あぁ、それと、茉耶と倉田を疑ったのも悪かった。あの堅物の倉田が茉耶に手を出すなんて有り得ないよな。二人がラブホで一夜を共にしたと知って、嫉妬でワケが分からなくなっていたんだ。許してくれ」

「専務……」


その事を謝られると辛い……


後ろめたさが先に立ち、それ以上、木村さんの事を聞く事が出来なかった。

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