クールな次期社長の甘い密約
――今日は、倉田さんが出張から帰って来る日。専務も会議で遅くなると言っていたし、話しを聞く絶好のチャンスだ。
でも……麗美さんから倉田さんに伝言を伝えたとラインがきたのに、倉田さんからはなんの連絡もない。とうとう定時になってしまった。
なんとしても倉田さんを捕まえなくっちゃ……
意気込んでエレベーターの前で待ち伏せしていたんだけど、帰宅を急ぐ社員の中に倉田さんの姿はなく、痺れを切らして再び秘書課に行くと常務室から出て来た倉田さんとバッタリ出くわした。
倉田さんは呆れた様にため息を付き、私の腕を掴んで秘書室のドアを開ける。誰も居ない秘書室で私達は少し距離を置き向き合った。
「また来たのですか。専務に見つかったらどうするつもりです?」
「だって、倉田さんが私を避けるから……」
「それが大沢さんの為だと思ったからです。私とこうやって会ってるところを専務に見られて困るのは、大沢さん、アナタなんですよ」
「分かってます。でも、どうしても倉田さんに聞きたい事があって……」
私の必死の訴えを無言で聞いていた倉田さんが腕時計をチラッと見て面倒くさそうに言う。
「ここで話しは出来ません。まだ秘書課の社員が残ってますからね。場所を変えましょう」
「えっ?」
「会社を出て右に少し行った所にフラワーショップがあります。そこの前で待ってて下さい」
そんな事言って逃げるんじゃないかと疑いの眼差しを向けると彼は私の心を見透かした様に苦笑いを浮かべる。
「これ以上、押し掛けて来られたら堪りませんからね。逃げませんよ」