クールな次期社長の甘い密約
というワケで、倉田さんが泊まっているビジネスホテルの部屋に来たんだけど、シングルルームは想像以上に狭く、椅子も一つしかない。倉田さんがベットに座ったので、迷った末椅子に腰を下ろす。
「あの、早速ですが教えて下さい。木村さんとどんな話しをしたのですか?」
間髪入れず本題に入る私に倉田さんは、その前に一つだけ答えて欲しい事があると言う。
「専務と木村君の件について話しをしたんですよね。専務の説明では納得出来なかったのですか?」
「納得出来なかったというか、あの木村さんがすんなり引き下がったワケが知りたくて……」
ため息を付いた倉田さんが腕組をし「出来れば、大沢さんの耳には入れたくなかったのですが……」といつもの淡々とした口調で話し出す。
「私はあえて、木村君の子供が誰の子かは詮索せず、彼女の意見を尊重しました」
「えっ、でも専務は疑いが晴れたって……自分の子供じゃないって言ってましたが……」
いきなり倉田さんと専務の話しが食い違い困惑してしまう。
「専務がそう言ったのは間違いではありません。私は専務の意見も尊重しましたから。専務が違うと思っているのなら違うのかもしれませんし。そこのところは曖昧のまま話しを進めました」
「はぁ? そこが一番重要なところじゃないんですか?」
「重要だからこそです。誰の子供かを明確にすれば、必ずどちらかの主張が誤りだったという事になる。そうなれば、二人の間に少なからず遺恨を残す事になる。
それを避ける為には、その部分をグレーにしておく必要があったんですよ」