クールな次期社長の甘い密約
「どちらかが悪者になるのを避ける為ですか?」
「そうです。木村君がどんなに頑張っても専務と結婚出来る可能性はゼロ。それなら、産まれてくる子供の為に一番いい方法を考えた方がいい。
子供を育てるにはお金が掛かります。産まれてから大学を卒業するまで数千万は掛かりますからね。木村君は有能な女性ですが、既に両親を亡くし、頼る人の居ない彼女が女手一つで子供を育てていくのは大変な事です」
そこで倉田さんは、普通では考えられない提案をした――それは、お互いが納得出来ない条件を呑む事で手打ちにするというものだった。
「木村君がお腹の子を専務の子供だと主張しない代わりに、専務はその子供が大学を卒業するまで援助する……二人が絶対に譲れない部分を譲歩するというのが、私の提案でした」
木村さんは子供の父親が専務だと言えなくなるが、将来の不安は消える。専務は長きにわたり木村さんの子供を金銭的に面倒をみる事になるけど、木村さんの子供を自分の子供だと認めなくてもいい。
「それで二人は納得したのですか?」
「するしかなかった……というところでしょうか。これで折れなかったらドロ沼です。お互何もいいい事はありませんからね」
倉田さんはお互い様だと言うが、その条件は圧倒的に専務の方に利がある。
木村さんが産まれた子供のDNA検査をすれば、白黒ハッキリさせる事が出来る。こんな条件を呑まなくても養育費は確実に貰えたはずだ。なのに、どうして倉田さんの提案を受け入れたんだろう。
その最大の疑問の答えは――
木村さんが専務を愛しているから……だった。