クールな次期社長の甘い密約

「愛しているから受け入れたのですか?」

「木村君は純粋に専務が好きなんですよ。今でも専務と結婚したいと思っている。ですから愛する専務に抱き締められ『頼む。悪いようにはしないから俺を助けてくれ』と懇願されたら……グラッとくるでしょ?」

「あぁ……」


それって、納得したというより、惚れた弱みにつけこんで無理やり納得させたって事じゃないの? 専務の説明と全然違う。


木村さんがどんな気持ちで提案を受け入れたのか、その胸の内を想像するだけで切なくなる。


「木村さん、可哀想……」


そう言ってスカートを握り締めると倉田さんは視線を落とし、とても小さな声で呟いた。


「大沢さんも可哀想です」

「えっ?」

「結婚しようとしている相手に、もうすぐ子供が産まれる……かもしれない。木村君に同情するより、自分の事を考えた方がいいんじゃないですか?」


そうだよね。私以外の女性が専務の子供を産むんだもの。ショックじゃないと言えば嘘になる。でも、辛いのは私だけじゃないから……専務を諦めた木村さんは、きっと私以上に辛いはず……


「私は大丈夫です」


そう言って微笑んだつもりだったけど、無理やり笑顔を作ったからちゃんと笑えているか自信がない。


「無理しないで下さい。ここに居るのは私とアナタだけ。言いたい事があるなら言って下さい。私で良ければ聞きますから」


そんな風に優しい言葉を掛けられたら、我慢していた気持ちを抑え切れなくなる。


「倉田さん……」

「強がる必要はありません。泣いてもいいんですよ」

< 305 / 366 >

この作品をシェア

pagetop