クールな次期社長の甘い密約
涙を堪え倉田さんを見つめていたが、もう限界だ――
堪らず椅子から立ち上がり、ベットに座っている倉田さんの胸に飛び込んでいく。そして、そのままの勢いで彼をベットに押し倒す。
ベットのきしむ音と共に体が大きく跳ね、私達は自然に抱き合っていた。
「なんでも言っていいとは言いましたが、襲っていいとは言いませんでしたよ」
そう言ってクスリと笑う倉田さんの腕は、私を強く抱き締めてくれている。それが嬉しかった。
「ごめんなさい……少しの間でいいの。このままで居させて……」
いけない事だと分かっていても、今の私には彼の温もりが必要だったんだ。でも、私の心を癒してくれると思ったその温もりと広い胸は予想に反して全く違う感情を呼び起こす。
もう何もかも無かった事にして倉田さんとこうして居たい。専務の事も木村さんの事も、何もかも忘れてしまいたい。
「倉田さん、私……」
専務とは結婚したくないと言おうとした。けれど、私がその気持ちを伝える前に倉田さんが「大沢さんの幸せの為に、あの言葉は忘れます」そう言ったんだ。
「えっ……?」
「誰よりも私を愛してると言ったあの言葉ですよ。その言葉は私にではなく、専務に言うべきです」
「あ、でも……」
「私は大沢さんを抱いた事を後悔していないと言いましたが、今は……後悔しています」
それは、私にとって残酷な一言。
「木村君の事は、私が責任を持って対処します。ですから大沢さんは、あの夜の事は忘れて専務と幸せになって下さい」
もう倉田さんは私の事なんか好きじゃない。それがハッキリ分かった瞬間だった。