クールな次期社長の甘い密約
――猛暑だった夏が終わり、青く澄んだ空に浮かぶうろこ雲がビル群の遥か彼方まで広がっている。
仕事と結婚準備に追われ、気付けばもう十月。明日は私の両親と専務のお父様である社長との初顔合わせの日だ。
既にお互いの家族からは承諾を得て婚約はしていたが、両家はまだ一度も顔を合わせていない。社長のスケジュールの都合がついたので、急遽、私の両親が田舎から出てくる事になったんだ。
「森山先輩、お先でした。お昼に行ってきて下さい」
先に昼休みを取った私が受付に戻り、森山先輩がランチに行くと目の前の硝子扉が開いて一人の女性が入ってきた。
女性は真っすぐこちらに向かって歩いてくる。お客様だと思い立ち上がったけど、大きなサングラスを掛け、大胆なレースのプルオーバーにミニのプリーツスカートという出で立ちは、仕事絡みで来られたお客様とは到底思えない。
ヒールの音が止まり、受付の前に立った女性はグロスで光る唇の口角を上げ、サングラスを外す。
「お久しぶりね。大沢さん」
「あっ! アナタは……小沢さん」
それは、麗美さんを侮辱して専務に津島物産を解雇されたあの大沢真代さんだった。
会社に居た時は清楚なお嬢様風だったのに、随分変わっちゃったな……なんて思っていたら、小沢さんが手に持っていた雑誌をカウンターの上に置く。
「これは……」
「アナタと専務の幸せそうな特集記事、読ませてもらったわ」
「そ、それは、どうも……」
「婚約したんですってね。おめでとう。で、結婚はいつ?」