クールな次期社長の甘い密約

満面の笑みでそう聞く小沢さんの真意が分からず、言葉に詰まる。


大勢の社員の前で恥をかかされた彼女が、私達の結婚を祝福してくれるなんて天と地がひっくり返っても有り得ない。なのに、どうして……


「ねぇ、教えてよ。結婚式はいつ?」

「それは……その……」


こんな事考えちゃいけないのかもしれないけど、小沢さんが何か企んでいるんじゃないかと勘ぐってしまう。


「ヤダ~何オドオドしてんの? 私は同期の結婚をお祝いしに来ただけ。でも、言葉だけじゃなんだから、ちゃんと形に残るモノをプレゼントしないとね」

「あ、いえ、プレゼントだなんて……そのお気持ちだけで十分です。有難う御座います」


恐縮しながら頭を下げると小沢さんはカウンターに両肘を付き、私の顔を覗き込んでくる。


「近々、お祝いのプレゼントが届くと思うから受け取ってね。大したモノじゃないげど、私の気持ちだから。今日はその事を伝えに来たの」

「は、はあ……」

「じゃあ、仕事の邪魔しちゃ悪いから帰るわ。専務と末永くお幸せに……」


小沢さんは終始笑顔を絶やさず帰って行った。でもそれがかえって不気味で、昼休憩から戻って来た森山先輩に相談してみたんだけど「気にする事ないわよ」って軽くあしらわれる。


「小沢さんが騒いだところで、アナタ達の結婚がどうにかなるって事はないでしょうし、雑誌を見て嫌味の一つも言いたくなったんじゃない? 負け犬の遠吠えよ」


森山先輩はあっけらかんとそう言うけど、私は不安で仕方なかった。

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