クールな次期社長の甘い密約
「あの日、私と専務は会社で話し合っていたけど決着がつかず、業を煮やした専務が倉田課長を呼んだの。その後、場所を料亭に変えて話し合いは続いたわ。でも……話しはどこまで行っても平行線。
見かねた倉田課長が間に入ってくれて、お互いが納得出来ない条件を呑んで解決しようと言い出したのよ」
それは、ほぼほぼ倉田さんに聞いた通りの内容だった。でも、専務と木村さんが和解した部分だけ話が食い違っていたんだ。
倉田さんの話しでは、専務を好きな木村さんが情にほだされ、子供の養育費を貰う事で納得したって事になっていたけど、木村さんは最後まで納得などしなかったと断言する。
その理由は、自分の子供を父親の居ない子にしたくなかったから……
話し合いは決裂寸前。居たたまれなくなった木村さんがトイレに立ち戻って来ると専務は電話が掛かってきた様で席を外していた。そこで、倉田さんにある提案を持ちかけられた――
「――その提案というのはね、倉田課長が私の子供を認知して、倉田課長の子供にするって事だったの」
「えぇっ!? 木村さんの子供を倉田さんの子供にする?」
「もちろんそれは形だけ。あくまでも戸籍上での話しよ。私と倉田課長がどうのって話しじゃないわ」
驚きというより、ショックだった。
"認知"という言葉を聞いた時、もしやとは思ったが、まさか本当に倉田さんが専務の子供を認知しようとしてたなんて……
「倉田課長は、それでなんとか収めてくれって何度も頭を下げていたわ。その姿を見ていたら、なんだか泣けてきて……」