クールな次期社長の甘い密約

木村さんは、認知してくれると言う倉田さんの優しさに胸を打たれたそうだ。でも、上司というだけでなんの関係もない倉田さんが、どうして自分の為にそこまで親身になってくれるのか、それが謎だった。


その疑問に倉田さんは、こう答えたらしい。


『――……おそらく私は一生、結婚はしないでしょう。ですから子供を持つ事もない。戸籍上だけでも自分の子供を持てるというのは嬉しい事です。それに、天涯孤独の私は認知しても迷惑を掛ける人は居ませんしね』


「倉田さん、そんな事を言ったのですか……」

「えぇ、私さえ良ければ、子供の為に父親の真似事をしてもいいとまで言ってくれたわ。専務には、誰の子か分からないなんて冷たくあしらわれた後だったから倉田課長の言葉にホロリときちゃったの。

だからつい『分かりました』って言ってしまったのよ。正直、自分一人で子供を育てる自信がなかったから。でも、それが専務の指示だったとはね……」


木村さんはそこまで言うとレジ袋から煙草を取り出し、慣れた手付きで火を点ける。


「あの、妊娠してるのに煙草は良くないんじゃないですか? それに、ここは冷えますし、近くに喫茶店がありましたからそこに……」


けれど木村さんは私の言葉を遮り青白い煙を吐き出す。


「……いいのよ。妊娠なんてしてないんだから……」

「ええっ? 妊娠してないって、どういう事ですか?」


衝撃の告白にぶったまげて思わず大声を上げるが、木村さんは淡々と話しを続ける。

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