クールな次期社長の甘い密約

「あの時は、気持ちが弱っていたから倉田課長の申し出を受け入れて専務と和解したけど、冷静になって考えてみれば、やっぱり関係のない倉田課長に認知してもらうのは間違ってるって思ったのよ。

だから断わるつもりで倉田課長に電話しようとした。でもその時、妙な感じがしてトイレに駆け込んだら……生理になってたの」

「せ、生理って、検査してなかったのですか?」


確実な裏付けがあった上で妊娠を主張しているんだと思っていたから驚きを隠せない。


「ええ……検査はしていないわ……」


木村さんは約半年間、生理がこなかったそうだ。元々不順だったし、ちょうどその頃、専務に振られて精神的に不安定だったから、初めはストレスで遅れているんだと思っていた。


でも、次の月も生理はこず、もしかしたら専務の子供を妊娠したのかもって思う様になり、市販の妊娠検査薬を買って確かめようとした。


「でも、検査はしなかったの。うぅん、出来なかったと言った方が正しいかもね」

「どうして? なぜ出来なかったのですか?」

「妊娠したかもって思った時、凄く嬉しかったのよ。専務が妊娠した事を知ったら、私の所に戻ってきてくれるんじゃないかと思ったから……

だから検査で陰性が出て妊娠を否定されたらどうしようって怖くて検査出来なかったの。そのうち、つわりの様な症状が出てきてお腹もポッコリしてきたわ。

ネットで調べてみたら、他にも妊娠初期の症状と合致する部分があって……もう間違いないって思ったの」

「それって、もしかして……」

「そう、恥ずかしい話だけど、想像妊娠だったのよ」

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