クールな次期社長の甘い密約

ロッカールームを出て階段を上がり、まだ誰も居ないシンと静まり返った玄関のエントランスに出る。


森山先輩が来る前に朝の用意を済ませておこうと思い、受付横にある商談スペースのテーブルを拭き、次にカウンターの中を屈んで掃除していたら、頭上から森山先輩の声がした。


「あら、あなたが新しく配属になった娘? 随分早い出社ね。昨日の大沢さんとは大違い。いい心掛けだわ」


その言葉に苦笑いを浮かべ振り返るが、森山先輩は私だと気付いてない様で「私、森山光、宜しくね」って上機嫌で自己紹介してくる。


「あの、森山先輩、私……大沢です」

「……はぁ?」

「すみません、異動だと思ったら違ってました」


少しの沈黙の後、森山先輩が小声で「あなた……何言ってるの?」と呟く。


「ちょっと色々ありまして……引き続き宜しくお願いします」


ペコリと頭を下げると森山先輩の大きな目が一段と大きくなり、私の顔をマジマジと見つめる。そして眉間にシワを寄せ、首を左右にブンブン振った。


「違う……大沢さんじゃない! あの娘はモサッとしたお椀みたいな頭に、ゲジゲジ眉で、趣味の悪い眼鏡掛けてたのよ? おまけに、ボヤ~とした顔して女子力ゼロの暗い娘だったんだからぁー!」


森山先輩、正直過ぎる……私の印象ってそんな感じだったんだ……


仕方なく昨日の事を話し、なんとか私だって信じてもらえたけど、専務の膝の上で抱き締められた事は言えなかった。そんな事言ったら、玉の輿を狙ってる森山先輩に半殺しにされそうだったから……

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