クールな次期社長の甘い密約
――翌日の朝、私は森山先輩に専務に呼ばれたと言って、最上階にある役員室に向かった。
でも、私がノックした部屋は専務室ではなく常務室。昨日、木村さんに聞いた話しを伝える為、森山先輩に嘘を付いて常務に会いに来たのだけど、常務室の役員受付が麗美さんだという事をすっかり忘れていた。
麗美さんは怪しげな目で私を凝視する。
「真耶ちん、今夜……分かってるよね? 前に行った居酒屋で待ってるから、全部話してよ」
「う、うん。分かった」
麗美さんと短い会話を交わし常務室に入ると顔を上げた常務が驚いた様に目を見開く。
「大沢さんじゃないですか。どうしました?」
「朝早くからすみません。あの画像を専務に送った人が分かりましたので、常務にお知らせしておこうと思いまして……」
私は木村さんが言っていた内容を話し、全ては私と専務に恨みを持った小沢さんが仕組んだ事で、倉田さんはなんの関係もなく、巻き込まれただけだと訴えた。
「そうですか……犯人はあの小沢真代さんでしたか」
「はい、悪いのは私なのに、倉田さんだけが会社を解雇辞されるなんておかしい。常務の力で倉田さんを会社に戻してもらう事は出来ませんか?」
しかし、専務が決めた事を常務が覆すという事は、私が考えていた以上に難しいらしく、あまり期待しないで欲しいと言われた。
「ダメ……なんですね?」
「いや、まだダメと決まったワケではありません。僕なりに動いてみます。それと、小沢真代さんの件は僕に任せて下さい。今後、こんな事がないよう宮川君に強く言っておきますから」
力強くそう言った常務だったが、私が木村さんから倉田さんの認知の話しを聞きいたと言うと表情が曇る。