クールな次期社長の甘い密約
「……でも、どうして専務は、仕事中に秘書の倉田さんを同行させてまで、大沢さんを美容院や眼科に連れてったの? そんなの仕事終わりか休みの日に行ってこいって言えば済む事じゃない」
「そ、それは、私が受付に居たら会社の恥だと思ったみたいで……なるべく早くなんとかしたかったんじゃ……」
「まぁね、それは分かるけど、私が引っ掛かってるのは、専務が自分のポケットマネーを使って大沢さんをイメチェンさせたって事」
確かに、それは私も不思議に思っていた。会社の為とはいえ、わざわざ自腹で、それもVIP ROOMまで使わせてくれて……
「なんか特別扱いみたいで納得いかないなー」
完全にご機嫌斜めの森山先輩が、ギロリと私を睨んだ時だった――
「特別扱いは、納得いかないか?」
カウンターの向こうから聞き覚えのある声がする。
えっ……この声って、まさか……
私と森山先輩は目を合わせたまま息を呑む。そして、ゆっくり正面を向くとカウンターから身を乗り出す様にこちらを見つめている笑顔の専務が居た。
「ひ、ひぇ~! せ、専務っ!」
私達は話しに夢中になっていたせいで、専務が出社してきた事に全く気付いていなかったんだ。
慌てて立ち上がり、これでもかってくらい深く頭を下げる。森山先輩も同様に頭を下げているが、その横顔は血の気がなく真っ青だ。
「昨日は、大沢君を勝手に連れ出して悪かったね。君に仕事のしわ寄せがあったのは事実だ。迷惑を掛けて申し訳ない」
専務に謝られ、森山先輩は完全にパニック。