クールな次期社長の甘い密約
「い、いえ、迷惑だなんて……とんでもないです。こんな娘で良ければ、いつでもどーぞ!」
舞い上がって心にもない事を口走る森山先輩。その言葉を聞き、専務が再びニッコリ笑う。
「そう? じゃあ、お言葉に甘えて時々、そうさせてもらうよ」
当然、それは専務の冗談だと思い、ここは笑うところだと判断した私と森山先輩は顔を引きつらせ必死で笑顔を作った。
でも――……突然伸びてきた専務の右手が私の頬をソッと撫で「大沢君は、特別だからね……」って妖艶な笑みを浮かべたんだ。
忘れもしない専務の膝から伝わってきた彼の体温。でも今は、直に肌で感じてる。包まれた頬が熱を帯び、彼から目を逸らす事が出来ない。
「吸い込まれそうな綺麗な瞳だ……」
それは、専務の方だ。とても澄んだ綺麗な目をしてる……
自分の立場や、ここがどこかなんてすっかり忘れ、目の前の専務に見惚れていると、あの人の声が再び私を現実の世界に引き戻す。
「専務、なかなか来ないので見に来たら……朝からこんな所で冗談はやめて頂けますか? 他の社員が変に思います。軽率な行動は控えて下さい」
見れば、エントランスに居る社員が全員足を止めこっちを見つめていた。事の重大さに気付いた私は慌てふためきオロオロするが、専務は全く動じず平然としていた。
「倉田か……お前は本当に口うるさいヤツだな。ちょっとした挨拶だよ」
ため息を付いた専務が何事もなかった様に軽く手を上げ去って行く。その後ろ姿を呆然と見送っていたんだけど、すぐに隣から殺気立った視線を感じ、恐怖で体が固まる。