クールな次期社長の甘い密約
入り口でオロオロしていると、社食に入ってきた中年の男性が声を掛けてきた。
新入社員なので、社食を利用するのは初めてだと言うとその中年男性は、IDカードで決済するんだと教えてくれた。しかし、何度試しても私のIDカードはエラーが出て受け付けてくれない。
「いいよ。ここは僕がご馳走するから」
「な、初対面の方に、それはいけません!」
「いいから、いいから。一人で食べるより話し相手が居る方が僕も楽しいからね」
それでも丁重にお断りしたが、強く出られると断れない性格のせいで、見ず知らずの中年男性と相席をする事になってしまった。
麗美さんが来たら驚くだろうなと思いながら、社食とは思えない豪華な料理をお皿に乗せる。
「それで、君はどこの部署?」
「あ、はい、総合受付です」
「受付? ……という事は、君、大沢茉耶さん?」
「えっ、どうして私の名前を?」
まだ出勤二日目の私を知っているなんて……この人、誰?
「いやね、受付に配属された新入社員が急に綺麗になったって噂を聞いてね。なるほど、君が大沢さんか?」
うそ……そんな噂が流れてるなんて全然知らなかった。
まるで自分の娘でも見る様な優しい眼差しを私にに向け目を細める男性に、苦笑して小さく頷く。
その後の男性との他愛のない会話は意外と楽しく、ランチを完食するとお礼を言って席を立つ。
「麗美さん来なかったな……」
しょんぼりしてエレベーターに向かって歩き出そうとした時だった。背後から「茉耶ちん?」という声が聞こえ慌てて振り返ると――見た事もない黒髪のスレンダーな女性が立っていた。