クールな次期社長の甘い密約
「あの、どちら様でしょうか?」
そう訊ねる私の肩を女性がバシバシ叩き「ヤだなぁ~私だよ~」って言うから目が点になる。
「もしかして……麗美さん?」
「そうそう! 秘書課になったからさ~髪も黒に染めてストレートにしてみたの。どう? 似合う?」
話し方は全然変わってないけど、見た目はまるで別人。髪型は元より、派手だったメイクはシックなブラウン系になってるし、キラキラだったネイルも控えめなピンクベージュだ。
「う、うん、凄く大人っぽい」
「てか、茉耶ちんこそ可愛くなっちゃって~! 秘書課で噂になってたよ。受付の新入社員が激変したって。ホントにめっちゃ変わったね」
やっぱり噂になってるんだ……
「だから社食の前で茉耶ちん待ってた時、エレベーターから降りてきた茉耶ちん見ても分からなかったんだよ。で、もう茉耶ちん来ないと思ってランチしてたんだけど、突然噂の事思い出して見に来たら……やっぱり茉耶ちんだった」
「えっ? 待ってた? 私が来た時、社食の前には誰も居なかったけど……」
なんだか話しが噛み合わないなと思っていたら、麗美さんの口から驚愕の事実が告げられる。
私が食事をした場所は、役員専用の社食で、一般社員は廊下の奥にある別の社食を利用する事になっていると……
「ええーっ! マジですかぁー?」
あぁ~通りでおじさんばっかだったんだ……知らなかったとはいえ、役員の人達に囲まれ堂々とランチしてたなんて……今更だけど恐ろしくて震えが止まらない。