クールな次期社長の甘い密約
ガクブルの私を見て豪快に笑っていた麗美さんだったが、急に真顔になり、誰かに頭を下げている。振り返った先には、さっきランチをご馳走してくれた中年男性の姿があった。
私も慌てて頭を下げ、麗美さんにあの人が誰なのか訊ねてみると……
「常務だよ」
「常務って、専務の次に偉い人だよね?」
「うん、今私、常務秘書の先輩に付いて修業中。常務ってね、凄く気さくでいい人なんだよ」
「そうなんだ……」
確かに親切でいい人だった。でも、きっと今頃、私をドジな新入社員だなぁって呆れてるだろうな……軽く自己嫌悪。
それから麗美さんとお昼休みが終わるまで同じ階にある談話室でお互いの仕事の話しをして過ごし、途中、話しの流れで専務の話題になったから、それとなく彼がどんな人なのか聞いてみる。
「専務ってさ、秘書課でも凄い人気だよ。なんたって社長の息子だし、独身の超イケメンだからね。秘書課の誰かと付き合ってるって噂もあるみたいだけど、どうなんだろ~?」
「あ……専務、秘書課に彼女が居るんだ……」
胸がチクりと痛み切ない気持ちになった事に驚いてしまった。
まさか、あんな事があったから期待してたとか? ヤダ、私ったらバカみたい。
身の程張らずの自分に呆れてため息が出る。
「そろそろ時間だね」
研修の時にはしていなかったシルバーの腕時計を確認した麗美さんに促され談話室を出ると、私達は二人並んで多くの社員が行き交う廊下を歩いて行く。すると、少し先のエレベーターの扉が開くのが見えた。