クールな次期社長の甘い密約

エレベーターから出てきたのは――……


「あ……専務」


その姿を見た瞬間、頬が熱く火照り鼓動が激しくなる。だから、麗美さんの後ろに隠れ専務に気付かれない様にしていたのに、麗美さんが元気よく挨拶するものだから、即行バレてしまった。


「あれ? 大沢君じゃない」


速足で近付いてくる専務に、麗美さんの後ろから顔を覗かせ挨拶はしたものの、意識し過ぎて専務をまともに見る事が出来ない。


「君も今からランチなの? あ、そう言えば、飯食う約束してたよな。良かったら一緒にどう?」


どうって言われても……あれは専務が勝手に言った事で、一緒に食事をする約束なんかした覚えがない。というか、専務と食事なんかしたら、きっと何も喉を通らない。 


「い、いえ……もう社食のランチを美味しく頂きました」

「そうか、もう食べたのか……残念」


その言葉通り、本当に残念そうな顔をする専務。秘書課に彼女が居るのに、どうして私みたいな面白味のない社員を誘うのか? 彼の真意が分からない。


複雑な思いでチラリと専務を見上げると彼はジャケットの内ポケットから名刺ケースを取り出し、一枚の名刺を人差し指と中指の間に挟んでニッコリ笑う。


「今日は九時頃まで夕食を兼ねた打ち合わせがあるんだ。だから、九時半にこの番号に電話して。待ってるから」


名刺を挟んだスラリと長い指が私の制服のベストの中に滑り込み名刺を押し込んでくる。その時、ほんの一瞬だけど、専務の指が……胸の膨らみに……触れた。


「う、うぎゃ~っ!」

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