クールな次期社長の甘い密約

木製の大きな門を抜け境内を行くと左手に墓地があり、そこに倉田さんの姿があった。彼は微動だにせず、固く目を閉じ手を合わせていた。


その様子は、ただのお墓参りって感じではなく何か鬼気迫るものがあった。だからそれ以上、倉田さんに近付く事が出来ず、暫くの間、距離を置いて彼の姿を眺めていた。


でも、時間が経つにつれ、なんか盗み見している事に罪悪感を覚え、こっそり引き返そうと向きを変えると境内を竹ぼうきで掃除していた住職が会釈して近付いてきた。


住職は私を倉田さんの奥さんと勘違いした様で「旦那さんは律儀な方ですな」と彼を見つめて手を合わせてる。


「今日は君華(きみか)さんの月命日でしたな。毎月、忘れずよく続きますよ。あの若さで感心しますな」


君華さんって誰だろう? って思ったが、軽く頷き話しを合わせる。


それからフレンドリーな住職の有り難い説法が始まってしまい戻るに戻れず、結局、倉田さんに見つかってしまった。


まだ私を倉田さんの奥さんだと思っている住職が、彼に「若くて可愛い奥さんですな」なんて言うものだから、倉田さんが絶句して目を白黒させている。


車に戻っても彼は納得出来ない様で、何度も首を傾げていた。


「どうして住職は、大沢さんを私の妻だと思ったのですか?」

「さぁ~? 私が倉田さんの奥さんに似てたからとか?」

「……それは有り得ません。私は独身ですから」


倉田さん独身なんだ。イケメンだけど、嫌味で根に持つタイプだもんな。喜怒哀楽もないし性格に難アリって感じだ。女性には敬遠されるタイプだよね。可哀想に……

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