クールな次期社長の甘い密約
「倉田さん、お気の毒に……ご愁傷様です」
「はぁ? それはどういう意味ですか?」
半ギレの倉田さんと暫く頓珍漢なやり取りが続いた後、ふと住職の言っていた事を思い出し、"君華さん"が誰なのか聞いてみると冗舌だった倉田さんが黙り込んでしまった。
車内に気まづい空気が流れ、沈黙が続く。
あれ? 私、地雷踏んじゃった?
調子に乗って余計な事を聞いてしまったのかも……と焦り始めた時、倉田さんがボソッと呟く。
「君華さんは、三年前に亡くなった専務のお母様です」
「専務のお母様?」
「君華さんには、生前とてもお世話になったので、毎月、月命日にお参りに行ってるんです。でも……この事は専務には秘密にしておいて下さい」
どうして専務に秘密なのか気になったが、あえてその理由は聞かず「分かりました」とだけ答える。
そして程なく到着したのは専務お気に入りのセレクトショップ。店内は海外のブランドを中心とした高級感溢れる商品ばかりで、ザ・庶民の私は完全に浮いていた。
店員さんがチョイスしてくれたトップスやスカート、ワンピースなど数点を購入し、これでやっと帰れると思ったのに、次に連れて行かれたのは、全く聞かされてなかったランジェリーショップ。
下着はいつも通販かファストファッションのお店を利用していたから、こんな本格的なランジェリーショップに来たのは初めてだ。
ショーウィンドーに並ぶ派手なランジェリーに圧倒されて店内に入れないでいると、倉田さんが強引に私の背中を押す。
「グズグズしないで早く入って下さい」
「えっ、倉田さんも入るのですか?」