クールな次期社長の甘い密約
ちょっぴり癪(しゃく)だったけど、試しに付けてみようかと鏡の前に立つ。
「わぁ……いい感じ。サイズもピッタリだ」
鏡に映った自分の体を色んな方向から眺め、一人ほくそ笑んでいると女性店員がやって来て鏡の前でブラの正しい付け方をレクチャーしてくれた。
「こうやって脇のお肉をカップに入れると……ほら、綺麗な形になるでしょ?」
「ホントですね。なんだか胸が大きくなったみたい」
さっきまでの怒りは何処へやら。すっかり気分が良くなり、鏡の前で背筋を伸ばして胸を突き出してみる。が、その時、突然試着室のドアが開き、鏡に倉田さんの無表情な顔が映り込んだ。
人間、本当に驚いた時は声が出ないという事を、この時、初めて知った。
倉田さんは私の真後ろに陣取り、肩を掴んで鏡を覗き込む。その様子を見た女性店員が彼を私の恋人だと勘違いしたみたいで「彼女さん、とてもお似合いですよ」の言葉と共に試着室を出て行く。
「ひっ、ひっ、ひっ……」
密室となった二人っきりの試着室。言葉にならない奇声を発し、上半身ほぼ裸という状態で鏡に映る倉田さんの姿を凝視する。
絡み合う視線に胸が高鳴り、体が熱を帯びる。
すると、肩にあった彼の手がゆっくり下りてきて私の胸に触れたと思ったら、慣れた手付きで輪郭をソッと撫でた。
抵抗したいのに、この手を振り払いたいのに、体が硬直してピクリとも動かない。その間も倉田さんの長く綺麗な指が何かを確かめる様に胸の上をなぞり吐息が私の髪を揺らす。
「――合格です」
「えっ?」
「間違いなく専務好みです」