クールな次期社長の甘い密約
その言葉を聞いた瞬間、なぜか虚しさを感じた。
この人は何をするのも専務の為……倉田さんは専務の命令ならなんでもするの?
その疑問は強烈な違和感に変わり、心の中で大きく渦を巻く。
「失礼しました……どうぞ服を着て下さい」
ブラウスを私の肩に掛けて礼儀正しくお辞儀をした倉田さんが試着室を出て行く。その姿を見て、いつか専務が言ってた言葉を思い出す。
"倉田は感情のない機械みたいなヤツだからな……"
全くその通りだ。あの人には人間らしい感情はないのかもしれない。
そう結論付け、急いで身支度を整えてランジェリーショップを後にする。車が走り出して約三十分。ようやく私が住むマンションの前に到着した。
大荷物を抱え、お礼を言って車を降りると運転席の窓が開く。
「お疲れ様でした。どうぞゆっくりお休み下さい。それと、コンタクト……昨日から付けたままですよね。目に負担が掛かっていると思いますので、すぐに外して明日は一日、眼鏡で過ごして下さい」
そう言うと出会って二度目の笑顔を私に向けた。
あ……笑ってる。笑おうと思えば、ちゃんと笑えるんだ。でも、倉田さん笑うととても優しい雰囲気になるのに、もったいないな……
「倉田さんの笑顔、本当に素敵ですよ」
お節介かと思ったが、本気でそう感じたから言わずにはいられなかった。しかし彼はなんの反応も示さず、無言でアクセルを踏み去って行った。