クールな次期社長の甘い密約

終業後、以前と同じ場所で麗美さんを待ちつつ、日が暮れ薄暗くなってきた外の景色を硝子越しに眺めているとその硝子に映り込んだ自分と目が合う。


私、本当に変わっちゃったな……


改めて体全体を眺めてみれば、入社した当時とは何もかも全て違っていて、まるで自分じゃないみたいだ。


ふんわりカールした髪にクラシカルなデザインの膝丈のワンピース。そう、あのセレクトショップで買ってもらった中の一着だ。


ホワイトとブラウンという少し地味な色使いだが、どこかレトロな雰囲気で、高めのウエストにある二つの大きなくるみボタンが可愛い。


母親がこの姿を見たら間違いなく泣いて喜ぶな。なんて考え苦笑いを浮かべると私の名を呼ぶ麗美さんの声が聞こえた。


「ヤダ~茉耶ちん、そのワンピめっちゃ可愛い。よく似合ってるよ! 今だから言うけど、この前の私服はモロ田舎娘って感じでヤバかったもんね~」

「そ、そうでしたか……」


なんでもズケズケ言う麗美さんでさえ、気を使って本心が言えないほど酷かったのだと知り、顔が引きつる。


そして私達が向かったのは、純和風の居酒屋。スーツ姿のサラリーマンに混じりカウンターに座って麗美さんお勧めのメロンサワーを注文する。



甘いメロンサワーを飲みながら、麗美さんがいつ専務の話しを始めるかとドキドキしていたんだけど、話題は専ら合コンで出会った男性の愚痴でちょっと拍子抜けだ。


一時間ほど他愛もない話しをした後、ようやく麗美さんの口から"専務"というワードが出た。


「あれからどうなの? 専務とは進展あった?」

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