【NEVER】
ここに来て携帯を触り始める陽翔さん。
いや、嘘だろ、おい。
だから もう陽翔さんのことは置いて 私一人で行こう、と歩き始めたところで
「おい、勝手に行くなよ。」
と陽翔先輩側に引き寄せられて、現在地 陽翔さんの腕の中。
「……はぁ?え……ちょっと……」
「ほら、行くんだろ?」
私の抵抗も虚しく、陽翔さんは私の腰に手を当て 自分の身体に引き寄せたまま歩き始めた。
「ちょっと待ってください、近いです!」
「五月蝿い。」
形の整った陽翔さんの唇が動いた。
「いや、"五月蝿い" って言ったって……」
付き合ってもないのにこの距離感はダメだって。
こんなの相当仲の良いカップルでもないとしないよ。
最悪、もうすぐ校門見えるんだけど……
こんな登校 人生初だし、するとしても 相手は彼氏が良かった。
こんな出逢って5分〜10分の輩じゃなくて。
「お願いなんで もうちょっと距離をください、隣歩きますから!」
「え?嫌だ。」
何が嫌なんだよぉ〜!!!
陽翔さんの感覚 絶対に可笑しい。だって、可笑しくない⁇ちょっと前に出逢った (ぶつかった) だけの相手だよ???
何???好かれちゃった???私、この人に好かれちゃったの???
陽翔さんの力は相変わらず強く 私の抵抗は簡単に丸め込まれてしまった。
そして、校門。
バッチリ たくさんの生徒に見られちゃった。もう最悪だ。
私、高校では彼氏欲しかったのに!!!
中学の時はお兄ちゃんたちが睨みをきかせていたせいで男友達もできなかった。
"もう高校生だから" とやっとのことでお兄ちゃんたちの説得に成功して 私にも華のJKライフが訪れるはずだったのに!
こんな男とド派手な登校なんてキメちゃったら 男の子誰も寄り付かなくなっちゃうじゃん……。
「「「キャーーー!!!」」」
陽翔先輩の方を見て、騒いでいるパンダ系女子たち……あ、目の周りが真っ黒になってるギャル系女子のことね。
……ケバい。
アイドルを見て、黄色い声を上げるのと同じ感覚なのかな⁇
確かに陽翔先輩の顔は整ってるけど……、そんな 叫ぶほど……かな……⁇
隣をチラリと見上げる。
いや、叫ぶほどだわ。
顔だけ見れば 本当に整っている。
ただ、不良っぽい男性は私の好みではない。
「陽翔様の隣に居る女は誰⁇」
「新しい女⁇」
とかとか、微妙に聞こえるくらいの声でうまい具合にざわざわと騒ぐ パンダ系女子たち。
聞こえてないと思ってて 言ってるのかな⁇
「ブッサイクーー。」
「陽翔様、ついに顔すらも選り好みしなくなったのかしら。」
えー、なんか、見ず知らずの人に私 ディスられてる?
嫌だなぁ、悪いことなんか 1つもしてないのに……
「陽翔さん、いい加減 離れて。離れてほしい。」
「え、嫌。」
即答も即答。
「気にしなくていいよ、外野の言うことなんて 嘘八百なんだから。」
「そうは言われても……」
「気にするな。」
耳元で囁かれた、とてもこそばゆかった。
だから、
「ひやぁっ。」
と特に色気もない声が口から漏れ出た。
陽翔先輩は妖艶に笑うだけで、何も変わらなかった。
そのまま、校門を通り 校舎内に入り 階段を昇り……昇り……昇り…… "立ち入り禁止" と貼り紙されているドアの前まで 連れていかれた。
「ねぇ、陽翔さん!?!?」
そこまで来て、陽翔先輩はようやく歩みを止めた。