【NEVER】
「壺倉さん、すみません……少しだけ、5人で話してもいいでしょうか⁇」
黒羽さんは相変わらず丁寧な口調を保っている。
「はい。どうぞ、私にお構い無く……」
「ありがとうございます。」
ニコリ、と笑った黒羽さんは とても10代の学生のものには見えなかった。
本当、紳士みたい。
5人から離れて 貯水槽の陰になっているところに座った。少しでも陽射しから逃れたくて。
5人はさっきより小さく集まって、ああだこうだと言い合っている。
こういうのから 喧嘩に発展したりしないよね?
私が5人の喧嘩を止めないといけなくなる、なんて展開はないよね?
まさか、そこまで短気な人の集まりじゃないよね?
私はすることもないから、寝転がって伸びをした。
あぁ……気持ちいいな、空が青くて澄んでいて。
太陽は眩しいけれど、心の曇りをも晴らしてしまいそうなほどの快晴。
鞄から取り出したのはミュージックプレーヤー。
5人の話がひと段落つくまで することないし、暇だし、イヤホンを耳に当てた。
好きなバンドの音楽を聴いていると、あっという間に時間は過ぎていく。
5〜6曲くらいしてから 陽翔さんが私の方を向いて手招きをしたい。
私はイヤホンを耳から外し ミュージックプレーヤーを片付けてから、5人の元に加わった。
「改めて、自己紹介をお願いしてもよろしいですか?」
「あぁ、はい。 "壺倉 梨那" です、1年2組です。」
"ありがとうございます" と微笑む黒羽さん。
「私は、2年の "黒羽 凪兎" と申します。
宜しくお願いいたします。」
"あっ" とあることを思い出した。
「もしかして黒羽さんって生徒会長ですか?」
「はい、生徒会長です。」
何となく 覚えのある人だと思っていた。
背格好もそうだし、声も初めて聞く声じゃない。
それは 生徒会長が入学式で在校生代表として祝辞を述べていたからか。
「あっ、なんで凪兎が先に言っちゃうの⁉︎ズルい!」
「何もズルくありませんよ。」
「僕、"本城 陽向" 。
梨那ちゃんと同じ1年2組だから 1年間 よろしくね?」
え、嘘でしょ?
こんな赤髪が同じクラスに居たら 嫌でも気づくと思うのに 陽向君のこと初めて見るんだけど……
「もしかして……私の左の席の入学式からずっと来てない人……って……」
「多分、僕かな。」
「だよねー。」
隣の席の人が居ないおかげで 今まで 何度 ぼっちでペアワークをこなしてきたことか……
あれ結構 地獄なんだからね?
「ごめんね、梨那ちゃんみたいに可愛い子が隣だ、って知らなかったから……」
シュンーという効果音が付きそうなくらい、落ち込んでみせる陽向君。
そんなことされると、何処と無く罪悪感が……
「これからは教室に来てね。」
「うん!これからは そうするよ!」
はち切れそうなくらいの笑顔が眩しい。