ドストライクの男
十二時五分過ぎ、ベリ子が「小鳥~」と意気揚々誘いに来たが、一瞬にして顔を歪める。
「またパーカーにジーンズ!」
私服に着替えた小鳥の全身を眺め、べリ子はハァと情け容赦ない落胆の溜息を付く。
「何故お洒落を楽しまないの!」
「お洒落を楽しむ? それよりも機能性を重視する方が大切なのでは?」
「貴女それでも女子!」
ベリ子のお小言を聞きながら、カフェ・オータムに赴き注文を終えると、レジカウンター近くの席に着く。
店内はランチ時ということもあり混んでいた。男女比は四対六。
軽食中心と聞いていたので、男性がこれほどいることに小鳥は驚く。
だがその理由はすぐ解明された。
「流石コーヒー専門店。種類が多いわ」
大きなハンバーガーを頬張りながら、ベリ子はテーブルに置かれたメニューを眺め言う。
そう、店員がテーブルに置いた注文の品を見た途端分かった。
ベリ子の食べているハンバーガー然り、全てがアメリカンサイズで男性でも満足できるボリュームだったのだ。
小鳥は本日のお勧め『シーフードプレート』なるものを頼み、後悔していた。
ビックプレートの上には、大きなライ麦パンが二枚、シーフードサラダ、クラムチャウダー、フィッシュ&チップスが大盛り。
「ベリ子さん、良かったら……」一緒に食べて、と言おうとしたのだが、言葉を遮られる。
「僕もご一緒していいですか」
ハイ? と顔を上げると、神々しい笑みを浮かべた光一郎が、マグカップ片手に立っていた。
久々のご対面だ。
「キャッ、スイートルームの王子様!」
ベリ子のテンションが一気に上がる。
どうやら執事田中の言っていたことは本当だったようだ。
でも、王子様って……。
小鳥の思いを他所に、「どうぞ、どうぞ」と勝手に承諾するベリ子の言葉に、「ありがとう」と光一郎は小鳥の隣の椅子を引き腰掛ける。そして、コーヒーの入った大きなマグカップをドンとテーブルに置く。
これがラージサイズの上をいく3Lサイズか、と小鳥は巨大マグカップに見入る。
「小鳥ちゃんとお知り合いなんですか?」
そんな小鳥と光一郎を交互に見ていたベリ子は、興味津々に目を輝かせ、好奇心を満たすように質問を始める。
光一郎は黒い笑みを浮かべ、その好奇心に応えるようにシレッと宣う。
「ウーン、強いて言うなら、裸の付き合いかなぁ?」