ドストライクの男
お昼の休憩が終わると、小鳥は早速午後の仕事に取り掛かる。
「君はさっきお店に来てくれた子だね。同席していた人たちに小鳥って呼ばれていたね」
2Fフロアのゴミを集めていると突然頭上から声が降ってきた。
ん? と小鳥が顔を上げると、カフェカウンターで神妙にコーヒーを淹れていた秋人が満面の笑みを浮かべ立っていた。
光一郎ほどカリスマ的な美しさはないが、百八十センチ近くある高身長と可愛げのある甘いマスクは明らかにイケメンの部類だろう、と小鳥は冷静に判断する。
自分の魅力を熟知しているのだろう秋人は、その魅力を最大限に発揮し、小鳥に近付くと小声で囁く。
「小鳥ちゃんかぁ、可愛い名前だね。俺、何度か君を見掛けて、声を掛けようと思っていたんだ」
普通なら、これで大抵の女性は秋人に落ちる筈なのだが、如何せん小鳥の場合通常人とは違う。
「はぁ」
全く気のない単語を返す。
秋人の予想を遥かに外す反応だったらしい。秋人は「ウソだろ」と一瞬放心する。
「あの、申し訳ございませんが、仕事がありますので離れてもらえませんか」
さらに追い打ちをかけるような言葉が続き、行く手を遮るように立ちはだかる秋人を迷惑そうに見る小鳥。
「……ねぇ、君って変わっているって言われない?」
モテ男を自負する秋人のプライドはズタズタに砕け散ったようだ。凹んだまま言葉を発すると、宇宙人でも見るような目で小鳥を見る。
「よく言われます」
だが、その返事も斜め四十五度上をいっていたらしい。
まさか肯定されるとは思っていなかった秋人は目をパチクリし、突然笑い出した。
先日もこんなことがあったような……と小鳥は光一郎とのやり取りを思い出す。
「クー、腹痛い。君、いいなぁ。気に入った。よろしく。俺、文月秋人。二十五歳。バリスタです」
存じ上げております、とは言えないので、小鳥は「桜木小鳥です」と頭を下げる。
「ねぇねぇ、お近付きの印に今夜一杯やらない?」
秋人と向かい合っていた小鳥の視線が彼の斜め後ろに外される。
「悪いがこの子は未成年だ。それに私の方が先約だ」
そして、秋人の誘いに答えたのは、小鳥ではなく第三者の声だった。