ドストライクの男
04)ドストライクの男
「……お戻りでしたか」
声の主は三日月だった。
三日月は愛おし気にキュッと小鳥を抱き締める。
「小鳥ちゃん、ただいま。元気にしていた?」
「お陰様で」
秋人は愛人とその情婦を見るように、三日月とその胸にいる小鳥に目を走らせる。
「君は確か『カフェ・オータム』の店長……よね。なかなかのイケメンだこと」
三日月は、胸ポケットから赤い名刺入れを取り出し、秋人に一枚渡す。
秋人もカフェエプロンのポケットから、黒い名刺入れを取り出すと、同じように三日月に手渡し、受け取った名刺の肩書と名前を見る。そして、アッという顔をする。
「そっか、小鳥ちゃんとこの社長さん……だから……」
熱き抱擁もアリってことなのか、と外国育ちの秋人は単純に理解する。
「すみません。彼女が未成年だとは知りませんでした。飲みにはマズかったですよね」
秋人が頭をカリカリと搔く。
「それに私はこの子の遠縁に当たる者なの」
桜木、嗚呼、なるほど! と今度は確実に納得した顔になる。
「保護者! も同じだから誘うなら私を通してね」
三日月の顔はにこやかだが、眼は笑っていない。
それに気付き秋人は一瞬たじろぐが、顔に似合わず不敵なようだ。ニッコリと笑む。
「了解しました。では、明日ランチデートさせて下さい」
「フーン」と三日月は小鳥の肩を抱きながら、心の中で、この子何を考えているのかしら? と妖しく微笑む。
「貴方、見かけに寄らず、なかなかの骨太なのね」
「お褒めの言葉と取らせて頂きます」
秋人は右手を心臓の上に置き、軽く頭を下げ、騎士のお辞儀をする。
「小鳥ちゃん、デートのお誘い、どうする?」
三日月は小鳥を見下ろし優しい眼差しを向ける。
「お断りいたします」
即答する小鳥に、やっぱり、というような目をする三日月。
「ということで、めげずにまた誘ってやってね。小鳥ちゃん、社長室で待っているから仕事が一段落着いたらおいで」
ピラピラと手を振りエレベーターホールに向かう三日月の背を見つめながら、秋人が忌々し気に呟く。
「クソッ、やり難いな」
「……」
チラリと見せたさっきまでとは違う悪党もどきの顔。そして、吐き捨てるような小さな呟き。
ル・レッドの人たちとは明らかに違う反応。
小鳥は、注意が必要だな、と秋人の横顔を盗み見る。