ドストライクの男
そんな小鳥を『不思議ちゃん』と評するべリ子の見解は、あながち的外れではない。
小鳥のルーツである彼女の父、桜木三日月は若かりし頃、超絶イケメンモデルで名を馳せた『世界のミカヅキ』だ。
公然の秘密だが、実は彼、両性愛者(バイ)。
三日月曰く、「天の下に愛は境界を持たない」だそうだ。
そんな三日月は、現在、家業の不動産会社B.C. Building Inc.を継ぎ、一年前、複合ビルB.C. square TOKYOを新築した。そこを拠点に、世界各国を飛び回る実業家となっていた。
「ママはね、とっても綺麗で、心も美しい女性だったのよ」
その彼が誰よりも深く愛したのが、幼馴染でもあった小鳥の母小春だ。
小春のことを語る三日月の瞳は、いつも遠くを見つめ愁いに満ちていた。
だから小鳥は父を慰めようと、心に残る母の面影を語って聞かせた。
「お掃除したての床みたいにピカピカだったね」とか「埃を払った後のような照明みたいに温かだったね」とか……etc.
本来なら、どうして覚えているのだろう? と不思議がる筈だ。
何故なら、小春が亡くなったのは小鳥が二歳になる前だったからだ。
普通なら、そんな幼い頃の記憶を鮮明に話す小鳥に首を傾げる筈だ。
だが如何せん、三日月は常人を超越した人物だった。
「そうよ。覚えているのね。偉いわ。ママはお掃除するのが大好きだったわね」
愛娘と愛しい妻の想い出を共有できるのが嬉しくて、それ以外の感情は蚊帳の外だった。
故に「もしかしたらお嬢様は天才かもしれません」と小鳥の『不思議』を一等先に気付いたのは、執事の田中金太郎だった。