ドストライクの男

07）最悪の初デート

「違った……」

ファーストキスとは全く違う……大人のキス。
小鳥は中指で自分の唇をなぞる。

唇が離れると光一郎は満足気に言った。

「君が何と言おうが、君は僕のモノで僕の花嫁になる」

キッパリ言い切る光一郎に、その自信はどこからくるの？　と小鳥は呆れたように見つめ言った。

「私も身分を偽っている身。貴方が黒羽ではなく白鳥だったということも、作家じゃなくKOGOの身内だったことも目を瞑ります。でも……私とのファーストデートをドタキャンしたことは許し難い」

「うん、じゃあ、デートしよう。そうだな、小鳥の今度の休みは？」

軽く宣う光一郎をキッと睨み、小鳥はムッとする。

「言い訳も無しですか。潔いのですね」
「笑みを浮かべ、嫌味を言う君も可愛いね」

全く悪びれない様に、怒りのボルテージは益々上がる。

「言い訳はしないよ。約束を破ったのは僕だから……」
「それでも、姿を消した理由を聞きたい」

目を伏せ声を震わせる小鳥に光一郎は呟いた。

「いつかその時がきたら必ず伝える。それまでもうしばらく時間を頂戴」

いつか……とはいつなのだろう。

だが、その声が余りに切なくて、その瞳に暗い闇が漂っていたから……。
だからそれ以上追求しなかった。

十四歳で何があったのだろう……。
その闇とは……小鳥はいつものように着替えをしながら窓の外を見る。

「全く、私もお人好しね……」

明日がその日だ。そう、光一郎との初デートの日。
真っ青な空。今朝見た天気予報は「明日も極上の天気でしょう」と言っていた。

「槍でも降ってきたらいいのに……最悪」