ドストライクの男
「ということは、小鳥本人には微塵も興味はないのだな」
光一郎が鋭い眼差しを秋人に向ける。
秋人は小鳥をチラリと見つめ、フッと目を逸らす。
「微塵も……という点については黙秘したい。こんな奇想天外な女性は生まれて初めてだ。胡桃がいなかったら……」
「それ以上は言うな。君の婚約者に失礼だろう」
光一郎が摂氏零度の視線を送る。
「ああ、そうだな。父に認められたくて……とにかく、全ては事業展開の成功を収めるための浅知恵だった。ごめん、小鳥ちゃん」
深々と頭を下げる秋人に小鳥が言う。
「姑息な手段を使わなくても……貴方のことはお店が開店した時、資料を読み知っていました」
エッ、と秋人が一瞬顔を上げ、そうだったんだ、とまた項垂れる。
「資料を基に分析したところ、貴方だったら間違いなく事業を成功に導くでしょう。自信を持って進んで下さい。社長の……父の三日月もバックアップするそうです」
「ありがとうございます……って、エーッ! 父って、社長って、エーッ!」
「だから、詰めが甘いって言ってるんだよ。彼女は三日月さんの娘」
「嘘……」
唖然とする秋人を可笑しそうに見つめ、光一郎は小鳥の眼鏡をいきなり外し、深々と被った帽子を取り上げる。
「光一郎さん、止めてください!」
小鳥は眼鏡と帽子を取り戻そうと背伸びし両手を上げる。
「ウワッ! メチャクチャ美人!」
「お母さん似だけど、三日月社長にも似ているだろ」
フフンと鼻を鳴らし光一郎は小鳥の頭に帽子を被せる。