ドストライクの男

「俺って心底悪人になり切れない奴だったんだな。天然女狐をも手中で転がすお前を見てしっかり気付かされたよ」

「悪人って人聞き悪いね。まぁ、策士ではあるけどね。経営者たるもの、それぐらいでなくちゃ」

「重々承知した。修行するよ」

秋人が降参というように両手を胸の辺りで上げる。

「あの、お言葉ですが、真摯な態度が一番だと思いますよ」

小鳥の言葉に光一郎が苦笑いを浮かべ、チュッとその頬にキスを一つ落とす。

「君には真摯に紳士然と向き合っているよ。だから早く僕のものになってね」

小鳥は真っ赤になりながらも、プンと横を向く。

「人前で勝手にキスしないで下さい」
「フーン、結婚は俺の方が早そうだ」

秋人がニシャリと笑う。

「それは分からないよ」

光一郎が言い返す。

「ウワッ! 厭らし気な策士顔」

秋人が眉を顰める。

「男女間の駆け引きは大切でしょう。小鳥を手に入れるためなら何だってやっちゃうもんね、僕」

全く懲りていない光一郎に小鳥の米神が痛み出す。

「有り得ない! この人がドストライクの男なんて!」

心の中で絶叫し、小鳥はまたお掃除お姉さんに戻る。
B.C. square TOKYOを美しく保つため。

その後ろ姿に光一郎が声を掛ける。

「デート忘れるなよ。俺、メチャクチャ楽しみにしているんだからな!」と。

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