ドストライクの男
「光一郎さん……」
マーサの目がウロウロと泳ぐ。
「何故、バスローブなんか着ているの?」
光一郎の眼が冷たく光る。
「あの、その……私……好き、貴方が好きなの」
上半身裸の光一郎の胸にマーサが飛び込み、ガッチリ抱き付く。
「だから……だから……」
「おい、止めろ! 小鳥、コイツをヒッペはがせ」
慌てる光一郎に小鳥はヒラヒラ手を振り、片唇をクイッと上げる。
「お邪魔みたいだから、私、帰ります。では、ごきげんよう」
「待て、小鳥、お……」
光一郎の声を部屋に残し、小鳥はパタンとドアを閉めるとB5F管理室に向かう。
「おや、小鳥様、デートでは?」
「……たぶん、光一郎とは一生デートできないと思う」
「お嬢様……」
執事田中の目が何か言いたげだ。
「バカみたいね、こんな格好をして」
いかに小鳥でも、王子のような光一郎とのデートだ。それなりの恰好をしなければ彼に恥をかかすだろうと、精一杯のお洒落をした。
「とんでもない。初めてご自分で選ばれたオレンジ色のワンピース、とてもお似合いです」
執事田中の言葉に、小鳥は弱々しい笑みを浮かべ、「ありがとう」と礼を述べるとエレベーターのある納戸に向かう。
「お嬢様」
肩越しから執事田中の声が聞こえ、小鳥は立ち止まる。
「私とデートをいたしましょう」
優し気な瞳が小鳥の顔を覗き込む。
「美味しいケーキを食べに参りましょう」
多忙な父の代わりに、いつも側にいてくれた田中さん。
ル・レッドにいた頃、小鳥はこの優しさをとても恋しく思った。
「そうね。甘いものが食べたいわ」
だから悲しませたくない。
キリリとした表情の小鳥に執事田中はニコリと微笑む。
「それでこそお嬢様です。参りましょう!」