ドストライクの男

「今の立ち位置で、貴方に怒る権利があると思いますか?」

低く冷静な声が光一郎に聞く。
ハッと我に返る光一郎が途端に小さくなる。

「ありません。すみません……でも、小鳥ちゃん、誰とデートしたの?」

弱々しい声と共に、捨てられた子犬のような目が小鳥を見つめる。

「……田中さん……です」
「田中って、執事の田中さんのこと?」

コクンと頷く小鳥に光一郎が抱き着く。

「よかったぁ。小鳥が浮気する筈ないもんね」

今にも踊りだしそうな勢いだ。
光一郎の胸の中で、子供か! と小鳥は突っ込みそうになる。

「とにかく三度目の正直。次回のデート日を決めよう」
「またですか? もう、デートはいいです」
「何を言う! ネバーギブアップだ」

絶対に諦めない……デートとはそんなに力を入れなければならないものなのか。小鳥は光一郎の横顔をマジマジと見つめ、フルフルと左右に首を振る。

「分かりました。だったら今からデートしましょう。で、何をするのですか?」
「エッ、仕事はいいの?」

光一郎の瞳がワクワクと輝き出す。

「もう、終了時間ですし、こちらの問題を先に解決しなければ、どうにも落ち着きませんので」

何故彼なのか? 三日月が光一郎をドストライクの男と決定付けた理由。その根拠が分からず、小鳥はどうにも腑に落ちない思いでいっぱいだった。

「それを知りたかったら彼を知りなさい」

昨日、執事田中とのデートの後に三日月に言われた言葉だ。

「触れ合ってこそ分かることがあるものよ」

だから、小鳥はそれに従うことにした。
彼とデートすればその理由が分かるかどうかは分からない。でも、何もせず考えていても時間の無駄遣いだ。

「そうだね。じゃあ、その前に!」

ニヤリと笑う光一郎に、小鳥は何やらよからぬ予感がした。

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