ドストライクの男
「ちょっちょっと、どこへ行くんですか!」
光一郎に手を引かれ、着いた先は42Fのホテル内にあるブティック。
「お掃除お姉さんのユニフォーム姿も素敵だけど、デートするには逆の意味で目立ち過ぎだと思うんだぁ」
光一郎の羽毛のような軽い言葉に小鳥は鏡に映る我が身を見る。
なるほど、と思いながらも52Fに戻れば服など腐るほどあるのに……と高級ブティックを見回す。
「とにかく、昨日のお詫びだと思って受け取って」
光一郎はブティックの綺麗なお姉さんを呼ぶ。
背が高いから、パンツスーツがよく似合っている。
「この子を姫にして」
姫? 何を言っているのだ!
小鳥の呆れ顔などお構いなしに、綺麗なお姉さんは容姿に似合わぬ意外な態度を取る。
「いややわぁ、噂のお掃除お姉さん、小鳥ちゃんやない!」
関西弁? 京言葉? 噂? どんな?
はてなマークが脳内に飛び散る。
「光一郎、ついに彼女をゲットしたん?」
小鳥が目を点にしていると、薫は「いや~ん、羨ましい」と光一郎の背中に右腕を振り下ろす。
バチーンと豪快な音と共に、光一郎は前のめりに突っ伏す。
「痛てぇ! 薫、何しやがる」
グイッと腕を掴まれた薫と光一郎の距離がキスしそうなほど縮まる。
その場面を見つめながら、小鳥はしみじみと言う。
「この前も思いましたが……美男美女のラブシーンは美しいですね」
「ハァァァ!」
光一郎と薫が声を合わせ「違う!」と強く否定する。
「コイツはれっきとした男だ! 俺の幼馴染。滝川薫。モード滝川の御曹司」
モード滝川……確か……と小鳥は記憶を掘り起こす。
「桜木三日月が専属モデルをしていた、あの有名デザイナーがオーナーの」
「そないな昔の話を覚えてはるん? もの凄う記憶力がええんやねぇ」
「そのオーナー、ビリー・滝川がコイツの親父」
幼い頃、娘が欲しかった、と可愛がってくれたダンディーなビリーおじ様。
その娘……じゃなく『息子』ねぇ、確かに似ている。
小鳥の唇がほんの少し弧を描く。
「そうですか、男性でしたか。まぁ、男性であれ女性であれ、『美』は価値あるものだと思っています。雌雄を超えた貴方の美しさは地上の財産ですね」
薫が光一郎に目配せし、囁く。
「おい、彼女何を言っているんだ? 通訳しろ」
「だから、言っただろ、彼女は天才なんだって」
嗚呼、なるほど、とイマイチ意味不明だが、と薫は頷く。
「おおきに、小鳥ちゃんも美人さんやね。うちのお洋服着たら、もっとパワーアップするえ」
では! と小鳥に有無も言わさず、薫は小鳥をマネキン人形にし始める。